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バークリーに留学する日本人〜シアター音楽に生きる 田中航〜

バークリー音楽大学に現在留学中の田中航(たなか こう)さん。「ミュージカル作家」という大きな目標に向けて努力する田中さんの学校生活、ボストンの暮らし、今後の目標などについてインタビューさせて頂きました。

(記事・写真 仲田祐基)

田中航さんの経歴

作曲家。佐賀県出身。
バークリー音楽大学 コンテンポラリーライティング&プロダクション専攻在学中。
2012年頃より音楽クリエイター・プロデューサーとして勤務。
2016年末に初のミュージカル作品『ある怪物の』を上演。
その後奨学金を得て渡米、現在は北米での舞台演出・音楽技法を学ぶ。
哀愁や寂しさといった感情を取り入れる繊細な音楽性に定評があり、舞台における物語とのハイレベルな融合を目指す。

「ブロードウェイミュージカルをやりたい」

お名前とメジャー(専攻)を教えてください。

田中航、コンテンポラリー・ライティング・アンド・プロダクション(以下CWP)メジャーで、楽器はピアノを弾いています。バークリーには2018年の春からいて、5セメスター*在籍しているのですが、12単位ほどテストアウト*して単位取得済みなので、実際は6セメスターぐらいになります。

*セメスター…学期のまとまりのこと。バークリーでは、春・夏・冬の3学期があり、人によって入学時期も違うため、セメスターで分けることが多い。
*テストアウト…授業が始まる前の週や中間試験の時期に、実技・筆記試験を受け、合格すれば単位が認められるというシステム。

なぜその学科を選択されたのですか?

僕はもともとブロードウェイミュージカルをやりたくてアメリカに来ました。専攻を決める前にいろんな先生と相談したんですけど、その時の先生たちのおすすめがCWPだったんです。

-CWPとはどんな学科なのでしょうか?

CWPは、すごく簡単に言うと“商業音楽を作るための技法”を学ぶ学科です。例えば、人数の多い楽器編成をスタジオで録音をする時に、その楽譜を書いたりするテクニックを勉強します。

よくCWPと比較されるのがフィルム・スコアリング(映画音楽)学科だったり、コンポジション(作曲)学科だったりすると思うのですが?

そうですね。フィルムだと映像に音楽を付けるという作業が多くて、コンポジションだとクラシック音楽を作ることが多い学科なので、いろんなジャンルの音楽を勉強できるCWPがいいかなって思いました。あとはミュージカルってボーカルがとても大事なんで、歌詞の書き方やボーカリストの扱い方も勉強できるこの学科を選びました。

Ko Tanaka 1

確かにボーカルがあるというのは大きな違いですね

その他にもソングライティング(ポピュラー音楽作詞・作曲)っていう学科もあるんですけど、どちらかというと“自分自身をアーティスト”として認識している人、“自分の曲を自分が歌う”みたいな人が選択する学科ですね。僕の場合は、ソングライティングのチェアー(学部長)に相談して、リリックライティング(歌詞の書き方を勉強する)の授業をとらせてもらいました。日本だと、自分の選択した学科の授業しか受けれないという学校が多いと思うんですが、バークリーでは違う学科の授業も受けれる、というのはすごく良い特徴ですよね。ミュージカルは歌詞が命なので、“どうやって美しい歌詞を書くのか”というのはとても勉強になりましたね。

どんな人がCWPに向いていると思われますか?

んー、僕の場合はミュージカルをやりたいと思ってこの学科を選択したんですが、一般的なCWPのイメージって“なんでもやります”って感じなんですよ、レコーディングもミキシングも作曲も…。それで将来的にテレビ番組のために音楽を書いたり、テレビCMに音楽を入れたりする仕事をする。だから例えば、フルートしか吹いたことがない人が「ボーカルってこういう風に書くんだ」とか、「管楽器ってこういうルールがあるんだ」とか、「ミックスってこういうことなんだ」とかを学ぶにはすごくいい場所だと思います。

なるほど。しかし裏を返せば中途半端になりやすいということなんでしょうか?

自分が将来何になりたいかをはっきりイメージできていないと、難しいかもしれませんね。どの学科にも共通することだと思うんですが、結局“自分が何になりたいのか”を決めるっていうのは重要だと思います。たとえば〇〇さんみたいになりたいとか。

「俺こんな風になれたんだ」

バークリーに入学されて1年ほど在籍されていると思うのですが、特に好きな授業はありますか?

(僕の答えは少し変わってると思うんですけど…)本当に一番良かったなと思う授業はイヤートレーニング*の授業でしたね。バークリーに来る日本人は、幼少期からピアノやってる人が多くて、もともと音感があったり、楽譜を読むことに抵抗がない人がほとんどなんですが、僕自身ピアノを始めたのが16歳ぐらいからだったので、楽譜を読むってことに本当に苦労していました。でも、そこでしばらく勉強したら、今では楽譜を見てある程度その場ですぐに歌えるようなりました。他のバークリー生からするとそんなに難しいことではないかもしれないんですが、”僕にとってはすごい技術なんです”。幼少期からやってないと身につかないと思っていた技術が今身についているので。だからあれはすごく良かったっていうか、ちょっと自慢できるっていうか、“俺こんな風になれたんだ”みたいな感覚はありますね。 

*イヤートレーニング…音楽理論と実際の音を結びつけるための授業。メロディやハーモニーの聞き取り、楽譜のメロディやリズムを声で歌う練習をする。

「1本の映画が人生を変えてくれた」

Ko Tanaka 2

バークリーに入学するまではどのような活動をされていたのでしょうか?

僕が音楽を始めたのは16歳で、まず吹奏楽部に入って打楽器を始めたんですよ。でも、そのうち音階が出る楽器がやりたくなって、プラスチックのキーボードみたいなのを買って遊んでました。そしたら曲が作りたくなって…という流れです。それで音楽の専門学校に入ろうと思ったんですけど、その時全然ピアノが弾けなかったんですよ(笑)でも、その後無事専門学校に入学できて、4年間音楽のことを勉強しました。専門学校を卒業した後は、3年間商業音楽のクリエーターとして会社勤務をしていましたね。でもその時に海外で勉強したくなって、会社を辞めて1年間カナダで語学の勉強をしてました。カナダにはワーキングホリデー*という勉強しながら働けるシステムがあるので、一緒に働いてもいましたね。その1年が終了するタイミングでバークリーに合格できたので、それで来たって感じです。

*ワーキングホリデー…ビザ(入国許可証)の一種。主に若者が休暇を楽しみながらその間の滞在資金を補うために一定期間働ける制度。

-紆余曲折ですね(笑)

そうなんですよ(笑)バークリーに入学するまでピアノのレッスンとか受けた事がなかったので、正直オーディション(入学試験)はとても不安でした。

ミュージカルをやりたいっていうのは、バークリーに来る前から決まってたんですか?

会社勤務をしていた約3年間の中で徐々に形になってきた感じです。もちろんミュージカル自体の関心は昔からあって、学生時代もミュージカルっぽい作品を作ってました。ただ、学生時代の僕の目標が「何でもいいから音楽の仕事につく、それで生活する」みたいな感じだったので、そのまま商業音楽の会社に入りました。3年間の会社勤務は、いろんな経験を積むことができてそれはそれで良かったんですけど、途中で「俺が本当にやりたい性質のものなのか?」っていう疑問が心に浮かんできました。そんな時に、とあるディズニーの“イントゥ・ザ・ウッズ”という映画を観て、「これだーー!」ってなったんです(笑)「これが俺の本当にやりたかった音楽だ!」って。

-なるほど。芸術をやっているとそういった瞬間がたまにあって、その瞬間に人生が変わったりする人の話をよく聞きますが、航さんもそうだったんですね。

そうですね。その映画が僕の人生を変えてくれました。

「トラブルはしょうがない」

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生活面についてお聞きしたいのですが、ボストンの生活はどうですか?

僕はバークリーの近くに住んでますね。ルームシェアです。家賃は950ドル、生活費は約450−500ドルぐらいです。あと留学生は学内のみアルバイトが許されているので、学校でアルバイトもしてます。バークリーは学校の中に寮もあるんですけど、そこに住んだことはないです、結構高いので…。僕はカナダでシェアハウスに住んでいた経験があるので、ルームメイトと一緒に生活するのはあまり抵抗がありませんでした。もちろん寮に住む利点、例えば“練習室がすぐ近くにあって使える“っていう魅力もあったんですけど、やっぱりお金っていう問題がすごくあったのでバークリー周辺で住むことに決めました。ただ今考えると、それができたのも全て経験すべきところは全部経験したからできるっていうのはもちろんありますよ。やはりアメリカならではのトラブルもありますし、信じられないようなことが起きたりしますね(苦笑)こればっかりは、実際に現地に来て生活してみないと分からないところだと思います。日本の常識が次々と覆されるようなことがたぶんあると思いますよ(笑)

そうですよね(笑)私もアメリカに最初に来た時は大変でした。

アメリカは言語も文化も違う国なので、最初は何が何だか分からないと思いす。たぶんスーパーに行ってもどうやって買い物したらいいのか分からないと思うし、薬局に行ってもなんて書いてあるか分かんないと思うんで(苦笑)そういった面では、ある程度暮らしに慣れる準備は必要かもしれないです。例えば最低限の薬とか、自分がちょっとホッとできるものとか…。あとはもちろん英語の勉強もしていた方がいいです。

ちなみに、今まであった印象的なトラブルはありますか?

泥棒が入りましたね(笑)朝学校に行くときに、自分のアパートの玄関を開けたら扉のガラスが粉々になってたんです。で、そこから人が入れるようになっていました。僕はそのとき「わっ!!」ってびっくりして、僕のルームメイト(65歳の白人のおじいちゃんで、アパートに30年近く住んでいる長老みたいな人)に「玄関のガラスが割れてるよ!!」「泥棒が入ったんじゃない?」って言ったんです。そしたら彼が一言「そのようだな」って全く動じないで言ったんですよ(笑)でもそこがギャップというか、日本だったら、ひとしきり驚いて「えー!!」「大変だ!大変だ!」ってなると思うんですよ。でもこっちだと「終わっちゃったことはしょうがないだろ」みたいな感覚なんです。だから、“そのようだな=昨夜のことだな=もう今は昼だからしょうがない”って感じになってましたね。一応警察も来て、状況を見たんでしょうけど、軽く現場状況を確認するだけ、みたいな感じでした。だから、今はアパートの内鍵をちゃんと閉めてから外出するようにしています。結局その時は自分たちの部屋に被害は無かったんですけど、そのおじいちゃんは鍵を締め忘れたりするんで(苦笑)“もしその時鍵が空いてたら?”とか思うと本当に怖かったです。でも精神的には太くなれますよ(笑)「そんなんでいちいちうわーって言っててもしょうがねえわ」みたいな。ちなみに隣の駐車場で発砲事件もあったんですけど、そのルームメイトのおじいちゃんは「そのようだな」っていうだけでしたね(笑)

ボストンは比較的安全な街と言われてますが、それでも日本と比べるとまだ危ないところが多い印象です。

そうですね。補足でいうと、僕が住んでいるシンフォニーエリアっていうのは、もともと治安はいいとされている地域のはずなんですけどね(苦笑)ただ、夜中に一人で出歩くのは気をつけたほうがいいかもしれないです。

「バークリーのつながりの強さって」

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シアターの授業を真剣な眼差しで受ける航さん

-バークリーに来てよかったなと思うことはありますか?

一言で表すなら“人脈”ですかね。カナダにいるときに、音楽関係の人脈を作ろうと思ってたんですけど、現実はそんなに甘くなかった。できるだけシアターに通って、ミュージカルの人と知り合って、「日本から来てシアター音楽をやりたいと思ってるんです!」って挨拶して…。でも誰も相手にしてくれなかった。英語も上手くないし、アメリカ人のノリも分かっていなかったので。それで、とりあえず学校に行くのがいいんじゃないかって思えてきたんです。その後バークリー音楽大学を見つけて入学しました。実際、バークリーに入学してから友達や知り合いは格段に増えましたね。例えば、最近ニューヨークに行って来たんですけど、友達のライブに遊びに行くと、友達の友達がいるわけじゃないですか?その友達が「あ、この子バークリー生で」って僕のことを別の人に紹介してくれるんですよ。そしたらその友達の友達もバークリー関係者で…みたいなことになる。すると、すぐその場で強めの“つながり”というか“”ができるんですよね。別の現場で会っても「あ、この前会ったね!」って覚えてもらえる。それって僕がカナダ時代にやりたくても、何回やっても、一回も成功しなかったことなんです!バークリーにいるからこそできる、つながりとか信頼関係ってあるじゃないですか。これはとてもすごいことだなって思っていますね。今までは全く相手にされなかったですから。世界レベルのすごい人と話すことができる、つながりを持つことができる。

バークリーのつながりの広さに関してはよく言われるところですね。卒業後もつながってる意識が強いというか、むしろみんなそれを大切にしているという感じです。

極端な話、歌手とか楽器のプレイヤーとかだと、セッションに行って、演奏して、「上手いね」って声をかけられたら、そのまま友達になれる機会は多いと思うんです。ただ、曲を作る人は基本的に机の上で作業してるんで、なかなか自分の作品を聴いてもらえる機会を作りづらい。だから、ただの知らない人が来て話しをするより、「僕、今バークリーで勉強してて、〇〇さん知ってますか?」みたいな話ができるっていうのは強みだと思います。

「観察して家でまねしてます(笑)」

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授業前に打ち合わせをする航さん

逆に今苦労されていることはありますか?

英語ですね。日本で育った僕にとっては、英語は死ぬまで苦手なんだろうなって思います。日々成長はしてるんですけどね。あとは、アメリカっぽいノリをちゃんと作らないと怪しまれる(笑)特にミュージカル系は。アメリカで、日本みたいに静かに丁寧に部屋に入って行くと周りから不審がられることが多いので、僕はなるべく明るく「ヘイ!」とか「イェーイ!!」とか言いながら入っていくようにしてます。実際ほとんど演技ですけど(泣)明るく振る舞うように努力してます。やっぱりコミュニケーションは大変ですね。

先ほど少しコミュニケーションの話についてお聞きしましたが、日本とアメリカの文化の違いも影響しているのでしょうか?

ありますね。ありますし、その難しさを現在学んでいる最中です。なんかこう日本人は、黙っていても周りから何も言われないですけど、アメリカでは“黙っている=怒っている”とか、“気分がよくない”のように思われてしまうので、明るく振る舞わないといけないというのは大変です。

(あと、これはあんまり人には言ってないんですが…)プレイヤーに対しての声かけや指導が上手い友達がいたら、その子を観察して家でこっそりまねしています。声の高さだったり、しゃべり方ですね。それを自分でレコーダーに録って、自分で聴きなおして、「こいつのこの声には従いたくないな」って客観的に判断してます(笑)

後は姿勢とかもそうですね。指揮の授業で勉強したんですけど、背筋が曲がってると“従う人の姿勢”。背筋を伸ばしていると“リーダーの姿勢”になるみたいです。ディレクターとか指導する人っていうのは、部屋に入った瞬間に「あ、この人がディレクターだ!」って分かんないとダメって言われたので、姿勢は特に注意してます。

「生活としての音楽」「ライフワークとしての音楽」

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音楽に合わせて指揮の練習をする航さん

卒業後の進路はどのように考えてらっしゃいますか?

まずはブロードウェイのあるニューヨークに行きたいと思ってます。ニューヨークがミュージカルの本場なので。そこで作家のアシスタントとから始めようかと。現場の流れも分かりますし、そうやってやってる先輩もいますし。去年シアター・オーケストラ・アンサンブルをやっていた人は、今はブロードウェイの大きなプロダクションのアシスタントとして働いてます。多分その人は、将来的にどんどん上の仕事をやらせてもらえるようになると思うんですよ。しっかりやっていればですけど(笑)僕もそういう道を目指してます。

ミュージカルに携わりたいというのは決まってらっしゃるんですね。

そうですね。逆にそれが決まってないと自分の軸がぶれてしまうので「ロサンゼルスもいいな」っとか。だから逆に選択肢が狭まっていいと僕は思っています。ブロードウェイで仕事をしようと思ったらニューヨークに行くしか選択肢が無いですし、シベリウスとフィナーレ*っていうソフトがあっても、ブロードウェイはフィナーレって分かってるんで。だからそれしか使えないってことは、迷わなくていいじゃないですか。やりたいことを1つに決められているのはいいことだと僕は思っています。

*シベリウス、フィナーレ…パソコンで楽譜を書くソフトのこと

今後の目標・活動予定はありますか?

2つの大きな計画があって、1つはアメリカで生計を立てるってことです。それはアシスタントから始めて、インターンを経て、シアターの中で働く職業音楽家としてのキャリアを積んでいく。それでお金を稼ぐということです。もう1つは、今自分のショーを書いているんですよ。ただ、今の自分ではショーを作り上げるのに最低5-6年かかる。プロダクションにするにはもっと時間がかかる。でもそれが僕はやりたいんですよね。そう考えると、このプロジェクトを成功させようと思ったら、アメリカに7−10年いないと無理なんですよ。だから、“生活するための音楽”。もう1つは自分の“ライフワークとしての音楽”を続けて行く。今すぐに成功するとは思ってないですし、10年経ってどうなってるかも分からないんですが、自分の決めた道を自分の足でしっかりと歩んで行きたいですね。

まとめ

ブロードウェイミュージカルに魅せられ、アメリカに留学されている田中さん。英語や文化の違いに苦労しながらも、目標に向かってひたむきに努力されていらっしゃるのがとても印象的でした。また、経験されたからこそ分かる“人脈”や“つながり”大切さ、音楽家としての人生設計など、私自身も大変勉強になりました。田中さんの今後にも注目ですね!

田中さん、お忙しい中本当にありがとうございました!!

Ko Tanaka 7
Berklee CWP Achievement Award を獲得された航さん
Ko Tanaka Profile pic
田中航さんについてより知りたい方はこちら!!
Ko Tanaka Official Website

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