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アメリカで仕事をする日本人〜ピアニスト・キーボーディスト 山下愛さん〜

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(写真 内山さら紗)

今回はアメリカ、ボストンでピアニスト・キーボーディストの山下愛(やました あい)さんにインタビューさせて頂きました。アメリカでお仕事を始めるきっかけやビザの申請の手続きなど、海外で働く音楽家として必要なこと等をお伺いすることができました。

(記事 仲田祐基)

山下愛さんの経歴

東京都、足立区出身。
3歳からピアノとエレクトーンを学び、クラシックだけでなくジャズやラテン、映画音楽等、幅広いジャンルの音楽に親しむ。
武蔵野音楽大学ピアノ専攻入学。卒業後、ピアノ講師、ブライダルピアニスト等で数年働く。
2015年、学費一部免除の奨学金を受賞し、バークリー音楽大学入学。
2017年、プロフェッショナルミュージック専攻(パフォーマンス・CWP作編曲)卒業。
2015-16年、ロータリー財団地区補助金奨学生。
2017年春、 来場者数6万人規模を誇る、ボストン日本祭りに、Ai’s Sakura Bandとして出演。
2018年春、自身の1stミニアルバム “I am Ai”をリリース。またAi’s Sakura Bandでアルバムリリースツアーとし、ワシントンDCやNYの日系祭りに出演。

現在は、アメリカ・ボストンを拠点に、レストランやゴスペル教会、ウェディングのピアニスト・キーボーディスト、作曲やアレンジ、プロデュースなど多岐に渡る活動を行っている。

愛さんが現在活動されているウェディングバンド「Finesse」

「どうせこの先ミュージシャンじゃ食べていけないだろ」

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-現在はどのようなお仕事をされていらっしゃるのですか?

私は音楽家で、主にピアニストとキーボードディストでお仕事を頂いています。作曲をしたり、自分のアルバムのプロデュースを過去にやったこともありますが、基本的には、楽器を演奏することで収入を得ています。

どのような場所で演奏されることが多いのでしょうか?

音楽をやられていない方だと想像しづらいかと思うのですが、基本的には個人事業主、つまりフリーランスの状態で依頼主から直接仕事を請け負うことが多いです。例えば私の場合だと、結婚式で生演奏をするためのバンドや、教会でのピアノ演奏、あとは、地元の小学校のピアノ伴奏の仕事など、多種多様なイベントの仕事があります。その中でも、1回だけのお仕事もあれば、継続的に頂けるお仕事もありますね。ありがたいことに、最近は特に忙しくさせて頂いています。

演奏のお仕事をたくさんやられているのですね。フリーランスということですが、日本に比べてお仕事の数や状況はどうでしょうか?

私はアメリカに来る前に、日本で同じように音楽家をやっていたのですが、アメリカの方が演奏の仕事は多い気がします。あとは、正直給料も良い気がしますね(笑)私が今住んでいるボストンは、物価も日本の約1.5倍ぐらいあるので一概には言えないのですが、仕事の数もお金の面でも良いと思います。おそらく、アメリカの中に“音楽家を尊敬する=対価を支払う”という文化が根付いているのかもしれませんね。

-そもそも、愛さんがアメリカで音楽家をやろうと思ったきっかけは何ですか?

先ほど言った通り、仕事の数が多いのと、アメリカの音楽を現地で体験・経験してみたかったのが一番大きいですね。あと、私は日本の音楽大学でクラシックを主に勉強していたのですが、もう少しジャズやポップスなどをアメリカでしっかり勉強したいと思っていたのも理由にあります。

なるほど。経済的な部分に関してはいかがでしょうか?

そうですね…、私は当時日本で結婚式での演奏や夜のバーでの演奏、声楽の伴奏などの仕事をやっていたのですが、経済的にはきつかったです。あとは、日本人の音楽家に対する“見る目”というんですかね、「どうせこの先ミュージシャンじゃ食べていけないだろ」みたいな目を感じていましたし、私自身、すごく劣等感を抱いていました。そんな時に、私のピアノの先生からアメリカのバークリー音楽大学のことを聞いて、色々考えた結果、留学することにしたんです。

「愛ちゃんマルチ商法始めたの?」

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クラウドファンディングをされた時の愛さん(写真:内山さら紗)

-愛さんは2016年に“クラウドファンディング”を行われていますが、どのような経緯でそれを行うことになったのですか?

バークリーの入学試験に合格して、留学することが決まり、学校の方から奨学金も少し頂けたのですが、正直全然資金が足りていませんでした(笑)でもどうしても留学はしたかったので、留学するまでの約2年間、お金を貯めるのと同時に、日本の各財団が実施している学生奨学金に何回も応募したりしていました。その後、何とか1つの財団から支援して頂けることが決まり、晴れて留学できることになったのですが、それでも生活が厳しいことは変わらない、「恐らく卒業まではアメリカにいられないだろう」と思っていたんです。そんな時に、インターネットでクラウドファンディングというものに出会い、その運営会社に相談してみることにしたんです。しばらく経ってから、担当者の方から連絡を頂いて、一緒にプロジェクトを進めて頂けることになりました。ただ、クラウドファンディングを始めたとたん、色々な友達や先輩からたくさんのご意見、例えば「愛ちゃんマルチ商法始めたの?」とか「今すぐやめた方がいい」とかは言われましたね(笑)

ラウドファンディング…不特定多数の人からインターネット経由で資金の提供や協力などを募るシステム。

確かに、インターネットでお金を集めるというのは、その当時は今より世間に浸透していなかったですし、驚かれた方も多くいたのでしょうね。

そうだと思います。そもそも、私のやり方が“商品を売る”という目的ではなく、あくまで“私個人の留学を支援してください”という目的で始められたプロジェクトだったので、「本当に詐欺なんじゃないか?」「マルチ商法じゃないのか?」という疑問を持たれた方は多くいらっしゃったと思います。あと、支援してくださった金額に応じて“CDを送ります”とか“レッスンをします”というお礼を設定したのですが、中には「CD1枚に5000円はおかしい!」と言ってこられる方もいらっしゃいましたね(苦)私自身、私の友達やファンが応援・支援してくれるのではないかと感じていたので、“応援+CDの価格”のような形で始めたのですが、世間からは厳しい意見をかなり言われました。その時に、「出る釘は打たれる」ってこういうことかって思いましたね(笑)ただ、私の場合は幸運なことに、クラウドファンディングのページ作成を手伝ってくれたルームメイトや友達、そして支援してくださったたくさんの方達がいらっしゃったので、プロジェクト自体は成功させることができました。

「とにかく毎日デスクワークをやっていました」

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愛さんは今年の3月(2019年)に、O1ビザを取得されたそうですが、ビザとはどのようなものでしょうか?

ビザというのは、海外に滞在する時に必要とされる身分許可証みたいなものですね。ビザには留学用のものや、観光用のもの、商業用のものまで様々な種類があります。私が取得したビザは“O1:通称アーティストビザ”と呼ばれるもので、卓越した技能を持った人、例えばスポーツや科学など、様々なジャンルで卓越した技術を持っていると認められると、仕事をするためのビザを政府が発行し、それがあると正式にアメリカで音楽の仕事をすることができるようになります。

-ビザというのは色々な種類があって、とても大事なものなのですね。ちなみに、愛さんの場合は、具体的にどのような手続きをされたのですか?

私は音楽家なので、“いかに音楽家として卓越しているか”ということを列記する書類を“約600ページ”自分で準備しました。ビザの申請のやり方は人それぞれで、一概に「これが正しい」というやり方はないのですが、私の場合は、弁護士さんに書類のチェックだけをお願いしました。弁護士さんにもいろいろ種類があって、書類の制作からチェックまで全てやってくれる会社もあるのですが、値段がとても高いです。私の弁護士さんは、書類のチェックしかしてくれないのですが、その分値段が安かったので、そちらを私は選びました。あとは、書類の制作からチェックまで自分1人でやる人も中にはいますが、ビザの申請はとても審査が厳しいので、少しでも不備があると、その部分の追加資料の提出や書き直しなどが求められるので、大変なようです。

弁護士によっても値段が違うとのことでしたが、愛さんは総額でどのくらいお金を使われましたか?

私は、総額5500ドルぐらいは使ったと思います。まず申請料だけで1000ドルぐらいはかかるので…。そこからは弁護士さんによって金額が変わってくるかと思います。あとは、基本的にビザの申請手続きには、とても時間がかかるので、もし急いで申請手続きを終わらせないといけない場合は、プラス1200ドルぐらいを支払うと急いで手続きをやってくれるようです。

ビザ申請費用内訳(山下愛さんの場合)
  • 弁護士費用 初回料金$1750/成功料$1750=$3500
  • 申請費用合計 $1000
    • AFMユニオン$250+エクスプレス料$100、移民局へ申請料$460
    • アメリカ大使館へ面接申請料 $190
    • (エクスプレスPremium fee $1,225)←私は使用していません
  • ウェブ記事掲載料$500+エクスプレス料$250=$750
  • 書類郵送費等$90
  • 書類ファイル・印刷プリンターインク代等$300
  • =合計$5640

-なるほど。お金を多く払うと申請手続きがスムーズになるのは、アメリカらしいですね(笑)ちなみに具体的な書類はどのようなものを準備されましたか?

私の弁護士さんは、特に最近は“メディア”が必要だと言っていました。具体的には、テレビ・ラジオ・新聞などの自分に関して記述してあるもの。あとは、ウェブの記事でもいいと言われてましたね。もちろん音楽家としての活動、例えばライブハウスやフェスなどの出演に関する資料も必要なのですが、その際に「ライブを行った内容がわかるもの(チラシ等ですね)」と「そのライブハウス、フェスがどれくらい権威があるのか、何万人の来場者があるのか」といった場所の説明も必要です。

私の場合は、過去にニューヨークの日系のラジオ番組に出演したことや、その記事、あとはワシントンD.Cにあるフェスに、自分名義のバンドで出演した経歴があったのですが、それでも審査に合格するのは難しいだろうと弁護士さんには言われてましたね(苦)

-それほどビザの審査は厳しいのですね。手続きの様子を伺っていると、とても時間を必要とされる作業だと思うのですが、実際にどのくらいの期間準備されたのですか?

私は、バークリーを卒業して1年間、OPTというインターンをするためのビザを持っていたのですが、そのビザが切れるまでの約3-4ヶ月は、朝は書類の作成や整理、ライブのフライヤーをスキャンしたりと、とにかく毎日デスクワークをやっていました。私は、もともとそのようなデスクワークは嫌いではなかったのですが、正直その時期は辛かったです…。しかし、それくらい一生懸命努力したので、何とか1回で審査に合格することができました。ただ、私のやったことが全て正しいとも限らないですし、時期によっても審査内容が変わってくることもあるので、事前に情報をしっかり調べておくことがとても大事だと思います。

「音楽でみんなをハッピーにする(笑)」

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ボストンのウェディングバンドで演奏される愛さん(出典:Finesse web site)

-アメリカ(ボストン)で現在働かれていて、働きやすいと思われる部分はありますか?

アメリカの人は、音楽に対しての反応がとても良いので、演奏しているこちらも楽しいですね。日本人だと、周りの目を気にしたりして、盛り上がることができない人が多いと思うんですが、アメリカでは、ちょっと面白いことをしたらすぐに反応があります。今の時期は結婚式のシーズンなのですが、会場でもみんな踊ってくれたり、音楽に乗ってくれたりするので、私自身もとても楽しいです。

-なるほど。国民性の違い等もあるのかもしれませんね。逆に、つらいことはありますか?

ありがたいことに今お仕事をたくさん頂いているのですが、お仕事が増えている分、音楽以外の時間、メールの返信だったり自分のスケジュール管理だったりが結構大変だったりします。特に、私のバンドでツアーを行っていた時には、音楽の練習とマネージメントの部分が忙しくなりすぎてしまって、ツアー先のホテルで泣いていました…。音楽に関わる作業は苦ではないのですが、飛行機やホテルの予約をしたり、メールの返信をこまめにすることがきつかったですね。最近は、本当に「マネージャーが欲しい!」と思うようになってきました(笑)

-今後の活動、目標について教えてください。

今はビザを取得できたばかりですし、音楽家として生活もできているので、アメリカにいるつもりですが、正直先のことは分からないですね。ただ、日本にいる家族の事を考えると、日本に帰国するという選択肢もあると思います。また、現代はパソコン一台あれば、どのような場所でも仕事ができるような世の中になってきているので、「色々な国でお仕事をするのもありかも」とは思っています。

あとは、私の人生の目標が「音楽でみんなをハッピーにする」(笑)ということなので、私の音楽を聴いている人が辛い時に元気になったり、楽しい気持ちになったりしてくれると嬉しいですね。一部のコアな音楽ファンが「すごい」と言う音楽よりも、一般的な人が聴いても楽しめる音楽を演奏したり、作っていきたいです。

最後に、海外で音楽活動をしてみたい、もしくは働いてみたいと思われている方へ一言お願いします。

もし「海外で活動したい、働きたい!」と今思っているのであれば、すぐに行動してみるべきです。私自身も、金銭的な面でとても苦労したのですが、本当にアメリカに来て良かったと思っています。あと、日本という国は大好きなんですけど、他人に対して「こうじゃなきゃいけない」とか、何か新しい事をやろうとする人に対して批判をする声が多いと思うんです。でも、アメリカだと何か新しい事を始めた時に「やってみればいいじゃん」とか「いいね、それ」とか、すごくポジティブというか寛容なんですよね。全然日本とは違う価値観です。なので、もし興味がある方は、是非1週間2週間だけ観光しにいくだけでも良いと思いますし、インターネットで情報を集めたりしても良いと思います。私は“自分の心がワクワクすることを、みんながどんどんチャレンジしていって欲しい”と心から思っています!

まとめ

常に新しいことにチャレンジされている愛さん。ご自身の未来を考え、努力し続ける様子がお話からとても伝わってきました。また、クラウドファンディングやビザの申請などの貴重な情報をお話してくださり、私自身もとても勉強になりました。愛さんの今後のご活躍にも目が話せませんね!

山下愛さん、お忙しい中本当にありがとうございました!!

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愛さんがリーダーをされているバンド「Ai’s Sakura Band」
Ai Yamashita CD cover
山下愛さんのファーストアルバム「I am Ai」
Ai Yamashita Profile
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Ai Yamashita Official Website

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