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アメリカで仕事をする日本人〜ドラマー・映像製作 田中領さん〜

Ryo Head

今回は、現在ニューヨークで活躍される田中領(たなか りょう)さんにインタビューをさせて頂きました。ドラマーや映像制作そしてYouTubeまで、いろいろなことにチャレンジされる田中さん。そのきっかけや、アメリカで働くことについて詳しくお伺いすることができました。

(記事 仲田祐基)

田中領さんの経歴

横浜市出身。
5才でドラムを始め中学生の頃からバンド活動を開始。
2003年より東京は南青山の生演奏ロックバー『08:30』のハウスバンドメンバーとなり、訪れる一流ミュージシャンと共演する事多数。
同時期にポップロックバンド、スピカでメジャーデビュー。通算5枚のアルバムを制作し、全国ツアーなど精力的に活動するも2010年に脱退。同年単身渡米、バークリー音楽大学に進学。
2013年、Professional Music Degree Courseを首席で卒業。
2015年よりPeelander-Zの全米ツアーに参加。
現在ニューヨークを拠点に活動中。

共演アーティスト
Peelander-Z、近藤房之助、Char、Godiego、T.M.Stevens、Shane Gaalaas、 愛内里菜、Kazha、北原愛子、
日野賢二、Nylon Pink、Momentum Drums、Rhythm of the Universe、Eren Başbuğ、Von Voigt、他

田中さんのYouTubeでの演奏

「自分は今、何をやるべきなのか? 」

Ryo Tanaka Pic1

現在はどのようなお仕事をされていらっしゃるのですか?

現在の主な収入源としては映像編集ですね。あとは、最近自分のYouTubeチャンネルも毎日更新しています。そこでは、ドラムの機材の使い方やニューヨークの生活について動画をアップロードしています。音楽は全然やってないですね(笑)

-田中さんは、2013年にバークリー音楽大学を卒業されたかと思うのですが、どのような経緯で映像編集のお仕事を始められたのですか?

2013年から17年まで、いわゆる“サポートドラマー”として活動しており、いろいろなバンドのツアー、レコーディング、もしくはドラムを生徒に教える仕事をやっていました。各バンドのツアーでアメリカの各都市に行ったり、普段、アメリカ観光では見れないような場所にも行かせていただいたりして、それはそれで充実した生活を送っていたのですが、そんな時に左足の太ももの部分がすごく痛くなってきたんですよ…。痛み止めを飲みながら、そこから約2年ぐらいは音楽活動を続けていたのですが、それでも痛みが引かず、昨年日本に帰国し、病院で精密検査を受けました。結果的に、日本の医者から「骨に腫瘍があるけど悪性ではなく、命に別状はないので、とりあえず安静にして様子をみましょう」という診断を受けたので、約1年間は日本で安静に過ごしていました。ただ、そうなった時に、演奏活動は足の痛みがあるので難しい。かといって、何か体を動かす仕事もできない…と思った時に始めた仕事が映像編集の仕事だったんです。映像の編集であれば、自宅にパソコンがあれば始められますし、外出する必要もなかったので、その時の自分の状況に合っていると思いました。

そのお仕事の具体的な内容はどのようなものだったのですか?

まず、インターネットで映像編集の仕事を探している時に、たまたま海外の英語のビデオを日本語に翻訳するという仕事が目に入ったんです。それは、もちろん英語が理解できないとダメですし、その求人を出している企業とも英語で直接やりとりをしないといけない。ただ、僕の場合はアメリカに長く滞在していたのもあり、英語も分かりますし、何より自分自身が「面白そうだな」と思ったんです。そのような気持ちで映像の仕事をスタートさせたのですが、ありがたいことに、その仕事を今でもやらせて頂いていますね。

なるほど。ご自身の身体の調子があまり良くない時に、始められたお仕事だったのですね。

そうですね。そして、日本で映像の仕事を始めて1年ほど過ごしたあと、足の痛みが引いてきて、だいぶ動けるようになってきたので、今年の初めにアメリカに戻ってきました。ただ、約1年間ほぼ音楽活動をやっていなかったのと、サポートドラマーをやっていた時に「サポートミュージシャンだと、自分の経歴が積み重なっていかないな…」という思いもあり、「どうしても音楽でないといけないんだろうか?」「音楽でなくてもいいのではないか?」という考え方にだんだんと変わってきました。要は「何か自分で楽しいと思ったことを、なんでもやってみたい」という気持ちですね(笑)

その「サポートミュージシャンだと、自分の経歴が積み重なっていかない」とは、どのような意味でしょうか?

これはビザ*を申請する時にも言えることなのですが、いわゆる“サポートミュージシャン”というのは、要は下請けの企業だと思うんですよ。つまり、「バンドのリーダーかプロデューサーがいて、ドラムを叩ける人が誰か必要だから、ドラマーとして僕を雇う」みたいな感じです。だから結局、出来上がった作品やバンドは、そのリーダーやプロデューサーの功績で、僕自身の功績ではないんです。もちろん、作品に名前が載ることもありますが、結局それは誰かの作品の一部でしかないと僕は思うんですね。しかも、この“僕を雇ってくれる人”がいなくなってしまったら、僕は生活できなくなってしまうんです。そう考えた時に、「自分の資産形成、キャリアを積み上げて行くにはどうしたらいいのか?」「自分は今、何をやるべきなのか?」という問いに対し、自分自身で出した結論が“YouTube”でした。

*ビザ…外国に入国するための許可証のようなもの。留学生のためのビザや、海外で働くためのものなど、複数の種類がある。

「なるだけ決定権のある人に相談する」

Ryo Tanaka Pic2

-その田中さんのYouTubeの活動については、あとでお伺いすることにして…。一般的に、ニューヨークで活動しているミュージシャンはどのような生活を送っているのでしょうか?

ほとんどの人が“下積み”というか、音楽以外の仕事で生活してる人が多いですね。地方都市であれば、バーで演奏したり、“GB”と呼ばれる結婚式でBGMを演奏する仕事も多いのですが、ニューヨークはそのあたりの仕事がほとんどないのが現状ですね。基本的に、みんな「やりたい音楽を、お金にならないけどやっている」という感じです。

そうすると、ほとんどのニューヨークのミュージシャンがいわゆる“下積み”生活をやっていると?

そうですね。もちろん例外もありますが…。例えば、アントニオ・サンチェスという有名なドラマーがいるのですが、彼も僕と同じバークリー音楽大学を卒業してニューヨークに移住してきた人です。ただ、彼はバークリーにいる時から、有名なミュージシャンたちと演奏をすでにやっていたので、ニューヨークに移住してきても、下積み生活をせずに、有名ミュージシャンと演奏することで生活ができているようですね。

ニューヨークの音楽業界は厳しいですね…。

うまく自分の道を見つけられた人は、音楽だけで生活ができるようになると思うんですが、そのミュージシャンの“つながり”がないと、結局下積みから始めるしか他に方法がないので…。

田中さんもニューヨークで現在生活をされていると思うのですが、生活する上で何か意識されていることはありますか?

そうですね…。仕事をする上で「なるべく決定権のある人と話をする」ということは意識しているかもしれません。これは、日系レストランでアルバイトをしている友達から聞いた話なのですが、そこのオーナーが、将来的にビジネス系の講演家を目指していて、「アルバイトにビジネスを教える」みたいなことをやっていたようです。そのオーナーがいつも言っていたのは、「なにか物事をやる時に、俺は基本的に社長しかみていない」と。要は(ちょっと言い方がきつくなるのですが…)、どんなに大きい企業の重役や局長であっても、最終的な決定権はトップの社長にあるので、社長が「この方針でいくぞ!」と決断したら、周りの部下はそれに従うしかないということですね。だから、その友達も「社長と話をすることが大事」ということをよく言っていました。

僕自身「ミュージシャンもそうだな」と思わされるような経験があって。僕が20歳ぐらいの時に、ある有名ミュージシャンの方の事務所の事務員をやってた時期があるんです。その方は、ご自分でバンドを組まれていて、バンドリーダーをやられていました。そんなある日、ある大きなイベントにその方のバンドが呼ばれることになったのですが、たまたまそのバンドのドラマーの方が海外にいて、その日のイベントに参加できないということになったんです。そのバンドで話し合って、「ドラマーどうしようか?」という話になったのですが、その時ふと、バンドリーダーの方が「ドラムいるじゃん」と言って、僕を指名してくれたんですよ。当時の僕はまだ20歳そこそこなので、僕より上手なドラマーはたくさんいたと思うんですが、そのバンドリーダーの方の一言で、僕がイベントのドラムを担当させて頂くことになりました。そのような経験があるからこそ、下積みからやるにしろ、なるだけ決定権のある人に相談するというのは大切なことだと思っていますね。

しかし、そのような“決定権のある人”と会ったり、相談したりすること自体が一番難しい部分ではありますよね?

確かにそうですね。そういう意味では今の時代のメディア、つまりブログだったり、YouTubeだったり、SNSを利用するというのは、つながる手段のきっかけとしてはいいかもしれませんね。

「ものは言いようなんだな、と思いましたね(笑)」

Ryo Tanaka Pic3

田中さんはO1ビザ:通称“アーティストビザ”を取得されていますよね?それは、いつ頃取得されましたか?

僕の場合は、初めて取得したのが2014年ですね。それから3年がたって、2017年にもう一度取得しました。

どのような手続きで取得されたのでしょうか?

2014年の最初の申請の時は、それこそ初めての経験でとても苦労したのを覚えています。当時は、自分の中で「弁護士を使って申請するのが当然」みたいな固定観念があり、自分も弁護士にお金を支払ってビザの申請を行うつもりだったのですが、よくよく周りの友達に聞いてみると、弁護士を使わずにビザを取得してる人がたくさんいたんですね。それで、実際に弁護士を使った友達に「弁護士は何をしてくれるの?」って聞いたんです。そうしたらその友達は、彼らは書類のチェックをするだけで、申請するための書類は自分で用意しないといけないということを言っていて(補足:弁護士によっても違いはあるようです)、「だったら結局、自分でやったほうがいいのではないか?」という考えになったんです。そこから、ビザの申請を行った友達に頼んで、頼んだ書類を見せてもらって自分なりに分析をしました。例えば、「弁護士使った人、使ってない人」「弁護士を使って申請に成功した人、していない人」「誰かのサポートを主にやっているか、自分の音楽活動を主にやっているか」などですね。

しっかりと分析されたのですね。

最初に移民局に資料を提出した時、僕は正直「申請が却下されるわけない!」と思っていたんですよ(笑)というのも、僕は日本で一応プロデビューもしていて、日本でバンドのツアーもしていたので。ただ、提出した資料のほとんどが「これは音楽活動の証拠としては効果がないですよ」という感じで送り返されてきてしまって…。その理由が「あなたは、そのバンドのメンバーですが、あなたのバンドではないですよね?それはバンドの功績であって、あなたの功績ではないです」というものでした。

バンドの一員として、しっかりと活動されていたのに、厳しい判断です…。

その時は、一瞬「俺はどうしたらいいんだ!」と思いましたが(笑)、そこで機転を利かせて、当時のバンドのプロデューサーやお世話になった方々に「手紙を一筆書いていただけないでしょうか?」とお願いしたんです。つまり、「僕(田中領)がそのバンドにどうしても必要な人材だったので、このバンドで雇いました。この人がいなかったら、このバンドは存続していません」といった内容ですね。ありがたいことに、お願いした方々は快く手紙を書いてくださり、それをもう一度補足資料として移民局に提出をしたら、今度はビザが取得できました。その時に僕は、「ものは言いようなんだな」と思いましたね(笑)

活動内容は一緒なのに、伝え方次第というか説得力次第で結果が変わってしまう…。アメリカらしいですね(笑)

本当にそうですね。僕がビザの申請を通して強く思ったことが、「言ったもん勝ちだな」と。アメリカは訴訟大国なので、法律やルールでさえも自分の言い分が通ればそれがひっくり返ることがあります。たとえば昔、「マクドナルドのコーヒーが熱すぎて、お客さんがやけどして裁判になった」という有名な話があって、僕も「むちゃくちゃだな(苦)」と思いますが、それと同時に“生きてて面白い国”ではありますね。

ビザの申請に関しては、人それぞれやり方が違うので、僕の経験が全員に当てはまるかどうかは分かりません。ただ、ビザの申請をしたことのある知り合いや友達を見つけて、その人から詳しく情報を得ることは大切だと思います。

「僕の動画が1つの例として提供できたらうれしいですね」

Ryo Tanaka Pic4
田中さんのYoutubeチャンネル

YouTubeの活動について、何か意識されていること・されたことはありますか?

YouTubeを始めるにあたって、「音楽以外のことでもいいかな」と最初は思っていました。ただ、今までの自分の軸が音楽にあり、「そのジャンルの知識を深掘りできるチャンネルの方が、見ている人も面白いのではないか?」と思い直し、今の動画のスタイルに落ち着いている感じです。

具体的には、どのようなことをYouTubeで発信されていますか?

昔は、いわゆる“叩いてみた”とか“やってみた”系の動画をアップロードしていたのですが、現在はドラムの機材の使い方やミュージシャンにとって役立つことを動画にしています。あとは、アメリカの生活の様子なども、たまにアップロードしています。

ドラマーの方が機材の紹介をしている動画は、あまり多くない印象なのですが?

そうですね。英語の動画はいくつかあるのですが、日本語で解説してる動画はあまりないと思います。ミュージシャンが使う機材というのは、人それぞれ使い方・やり方があるので、僕の動画がその中の1つの例として提供できたらうれしいですね。

「自分の人生の中身を濃く、そして楽しく生きる」

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アメリカで働かれていて良いと思われる部分はありますか?

自分が経験したことがないようなことを経験できるところです。特にニューヨークはそうなのですが、アメリカはいろいろな国の人が集まってきます。その中で、僕は国の文化の違いや歴史、社会問題まで、いろいろな国の人と話しをする機会があります。また、ニューヨークには国連本部があるのですが、一度その中で演奏させて頂ける機会がありましたね。そのような経験というのは、なかなか日本だとできないことだと思うんですよ。もちろん、日本も住みやすくてすごく良い国だと思うんのですが、日本にいるだけでは経験できないこと、面白いことをアメリカで経験できていることは、自分にとって大きいと思っています。

今後の目標について教えてください。

抽象的なのですが、僕の人生の目標が「濃い人生を送る」ということなので、音楽だけに限らず、自分が何か面白いと思ったことをやっていきたいですね。今はニューヨークにいて、映像制作やYouTubeの活動をやっていますが、もしかしたら、来年違う国に行ってるかもしれないですし、日本に帰国して、畑を耕しながら田舎暮らしをしているかもしれない(笑)でも、「自分の人生の中身を濃く、そして楽しく生きる」ということは変えずに生きていきたいですね。

最後に、アメリカで働いてみたい・留学してみたいという方に一言ありましたらお願いします!

もし「海外に出たい!」という気持ちが少しでもあるのであれば、僕は海外に行ってみるべきだと思います。もちろん、「海外には行ってみたいけど不安が多いし、お金もあんまりない」という方もいらっしゃると思うので、たとえば、最初は2泊3日の旅行でも良いので、現地の様子を見に行くのはいいと思います。あと、留学であれば、行ってみたい学校や地域の生徒さんにSNSでつながって、学校の様子や情報を聞いてみるものいいかもしれませんね。

あと、全てのことに共通すると思いますが、僕の話を含め誰かの話を100%そのまま鵜呑みにはしないほうがいいと思います。もちろん尊敬する人や先人の言葉は勉強になることが多いのですが、そこで得たものを踏まえた上で、自分の頭で考えることが大事だと思います。

まとめ

自分の人生を濃く、楽しいものにしたい」という目標をお持ちの田中さん。ニューヨークという厳しい環境に身をおきながらも、将来を見据えて前向きに努力される姿が印象的でした。今後も、田中さんのYouTubeの活動など、見守っていきたいですね。

田中さん、お忙しいところ本当にありがとうございました!!

Ryo Tanaka Pic End
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