Life is Beautiful

バークリーに留学する日本人〜アメリカで生きていくマインドセット 鈴木啓太さん〜

Keita Suzuki header

今回は、バークリー音楽大学に留学中のドラマー、鈴木啓太(すずき けいた)さんにインタビューさせて頂きました。ドラマーならではのマインドセット(思考法)からブラックミュージックのことまで、詳しくお話を伺うことができました。

(記事・写真 仲田祐基)

鈴木啓太さんの経歴

岐阜県多治見市出身。
ドラムを菅沼孝三氏、Fuyu氏に師事。
2012年、ソニーミュージックによるオーディションを経て、当時YUIのバックバンドを務めていたミュージシャンらから直接レッスン、バンドプロデュースを受ける。
その他に、菅沼孝三氏による「天地雅楽ドラムコンテスト」や、神保彰主催のドラムコンテストでの受賞歴有り。
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、一部奨学金を得てバークリー音楽院に留学。
現在はBilly Kilson, Ralph Petersonらに師事してドラムを学ぶと同時に、Contemporary Writing & Production学科にて、音楽理論や作編曲を学んでいる。

「 アメリカのドラマーって、何種類もの楽器が弾けて、自分自身で曲のアレンジをやる人も少なくないんです 」

Keita Suzuki Pic1

所属されている学科、専攻楽器を教えてください。

現在、コンテンポラリー・ライティング・アンド・プロダクション(通称CWP)学科に所属していて、ドラムをやっています。セメスターは2019年の春で4セメスター*が終わりました。ただ、僕の場合は日本の一般大学を卒業後にバークリーに入学しているので、単位はいくらか移行できました。

*セメスター…学期のまとまりのこと。バークリーでは、春・夏・冬の3学期があり、人によって入学時期も違うため、セメスターで分けることが多い。

そのCWPという学科では、どのようなことを勉強されていますか?

実はまだ、CWPという学科に入って2セメスター(約1年)ぐらいしか経っていないので、CWP関連の授業に関してはこれから増えていく予定です。ただ、5ホーン(管楽器)のアレンジを学ぶ授業や、パソコン上で作曲するやり方を学ぶ授業はすでに受けました。

では、啓太さんがそもそもアメリカに来られたきっかけを教えてください。

僕が、もともとアメリカに来たかった理由の1つとして、アメリカで“ライブアレンジメント”を勉強したかった、というのがあります。

その“ライブアレンジメント”は どのようなものでしょうか?

音楽のジャンルではないのですが、2010年代ぐらいから、アフリカン・アメリカンの人たち、いわゆる黒人の人たちが、ポップスやヒップホップをライブ用にアレンジ(編曲)して演奏したり、リズムに変化をつけて演奏したりするのが流行し出したんですよ。それで、YouTubeで彼らの動画を見たりしてたのですが、それらの動画の中にはバークリーの生徒によるものが多くて、アメリカ留学(バークリー)に興味を持ったものもありますね。

-なるほど。そうすると、啓太さんはアレンジを勉強することを目標にバークリーにいらっしゃったのですか?

そうですね。あと、もちろんドラムの演奏もです。実は、アメリカのドラマーって、何種類もの楽器が弾けて、自分自身で曲をアレンジをやる人も少なくないんです。彼らは小さい頃から教会に行く習慣があるので、そこで色々な楽器に触れるうちに、自然と覚えた感じだと思います。ドラマーは楽器の性質上、どうしても音楽理論に疎くなりがちだと思うので、より音楽的になるためにも、音楽のアレンジング(編曲法)について勉強できるCWPという学科を選んだところはありますね。

ライブアレンジメントの参考動画

人としてどうあるべきか、どんな人になりたいか

Keita Suzuki Pic2

-ドラムはいつ頃から始められたのですか?

ドラム自体は小学校6年生からで、それまでは、クラシックピアノを幼稚園から小学5年生までやっていました。ただ、父の仕事の関係でカナダに引っ越すことになり、家にあったピアノは持っていけない、しかもちょっとピアノにも飽きていて…(笑)そんな時に、昔からなぜか興味を持っていたドラムを始めることにしました。父親も、大学時代はプロのギタリストを目指していたぐらい音楽に熱中していたので、音楽をやることに対しての理解はありましたね。そのようなこともあり、自分から「ドラムをやりたい!」と親にお願いしたら、自分の誕生日に電子ドラムを買ってもらえました。そこからドラムに熱中していった感じです。

-なるほど。ちなみに、いつ頃からプロドラマーを目指されているんですか?

おそらく、中学2年生か3年生からだと思います。カナダから日本に中学2年生の時に戻って来て、そのあたりですね。 その頃からドラムに熱中していたので、「将来はドラマーになりたい!」と思っていました。 あと実は、高校も出来るだけドラムの練習ができるような学校を選びました(笑)

-それはどのような意味でしょうか?

僕が進学した高校は、高校から大学までつながっている学校で、いわゆるエスカレーター式なんです。なので、「高校に入ってしまえば大学受験が無い学校=その時間をドラムの練習に使うことができる」と考えました。それでも、やはり自分の両親が心配してしまうのもあって、とりあえず大学までは行こうと決めて入学しました。

-学生時代から、プロとしてしっかり将来を考えてらっしゃったのですね。高校時代はどのように過ごされていましたか?

ずっとドラムの練習をしてました(笑)学生自体の僕は、いわゆる練習魔で、授業中も、学校の廊下を歩く時も、ドラムのスティックを持って練習しながら歩いたり、授業を受けたりしてました。今思えばイタい子なんですが(笑)、学校が男子校で周りの目が気にならなかったのもあってそうしてましたね。

-学校の先生からは何か言われませんでしたか?

しっかり怒られたことがあります(笑)数学の先生に「それをやるなら出て行け!!」って本気で怒られました。でもこりずに、今度は握力トレーニングをするグリップみたいなやつを買って、手の筋力を鍛えたり、かかとを地面につけた状態でつま先を上げてスネの筋力を鍛えたりしてました。今思うと、「若いなぁ」って感じですね(笑)

本当に、ドラムに全ての時間を使われていたんですね(笑)

そうですね(笑)それこそ、高校時代は1度も友達と遊びに出かけなかったですし、誘われても全て断っていました。でも、高校の卒業式の時に、友達に「今日はさすがに高校卒業式だし、最後だから遊びに行こうよ」と言われて、初めてボーリングに行ったんですよ。そのあと自宅に帰ってその話を母親にしたら、「友達と遊びに行ってえらいね」ってことで、お小遣いをくれましたね(笑)普段からお小遣いをくれる親では決してなかったのですが、僕があまりにも友達と遊びに行かないので、とても心配していたんだと思います。なので、それぐらい友達とは一度も遊んでいなかったですね。

その後、日本の大学では、どのようにされて生活されていましたか?

大学で、クロスオーバー研究会という、フュージョンと呼ばれる音楽をやるサークルに入部したんですが、実際は部員それぞれが自分の好きな音楽をやっているサークルでした。あとは、とても実力至上主義のサークルで、楽器が上手い人がたくさんいたので、自分自身とても刺激になったのを覚えています。ただ、大学2年生の時に人生初のスランプになってしまったんですよね…。

何かスランプのきっかけはあったのですか?

当時まで、自分のドラムに対する考え方が「技術が上手ければいいだろう」と思っていたんです。サークル自体も、技術のレベルが高い人が多いですし、そういう部員が多かったので。でも次第に、テクニックよりもグルーヴ(心地よいビート感)の方が重要じゃないかと気づいていくにつれ、これから自分がどうやってドラムを極めていったらいいのか分からなくなってしまって…。

-啓太さんにとっての初めての挫折だったのですね。その後、スランプとはどのように向き合われましたか?

自分の演奏を録音したり、ドラムが上手い人の動画を見て研究したりしていたのですが、どうしても改善せず、日本で有名なあるドラマーの方に直接会いに行くことにしました。その方の演奏は以前、動画で見たことがあったのですが、ライブで直接演奏を聴くと、「このビート感めちゃくちゃ心地いい!かっこいい!」と心の底から思ったんですよ。それでライブ後に、そのドラマーの方にあいさつをしに行って、「弟子にしてください!」とお願いしたら、軽い感じで「全然いいよ」と言っていただきました(笑)そこから、その方のライブやリハーサルに色々と連れていっていただいて、間近で一流の演奏を見せてもらえたことはとても大きかったですね。ただ、演奏技術以上に、その方からは人生の哲学とマインドセット(価値観・信念)のようなものもたくさん学ばせてもらいました。そこから、少しずつスランプを抜け出せた感じです。

その方から、ドラムの演奏技術だけでなく、人生に対する考え方も勉強されたのですね。

そうですね。実際、音楽は生身の人間がつくるものなので、その人の人柄や考え方が、楽器の出音や音楽に直接影響すると思うんです。やっぱり、人として面白い人は演奏も面白いですし、演奏を聴いて「好きだな」って思った人は、会話をしても人として好きな場合が多いように思います。なので、例えば自分の演奏を変えたい、良くしたいという悩みがあった時に、多くの人がまずテクニックや奏法を研究するということをすると思うんです。もちろんそれもすごく大事なことなのですが(笑)、先ほども言ったように、その人の人間性と演奏は表裏一体なので、人としてどうあるべきか、どんな人になりたいかを考えることの方が、実は大切なんじゃないかなって思います。

-「人としてどうあるべきか、どんな人になりたいか」とは具体的にどのような意味でしょうか?

先ほども触れたのですが、人間性が良くも悪くも音に出るという意味です。もちろん、理想とする人間性は人それぞれ違っていいと思うんですが、僕が「この人面白いな、魅力的だな」って思う人は、色々な経験をしてきて、経験値が高い人といいますか(笑)、自分の知らない物事や世界を知ってる人であることが多いです。なので、自分自身も経験したことが無い物事に、なるべく積極的にチャレンジするようにしていますね

-色々な経験をすることが、音楽にも良い影響を与えるということでしょうか?

そうですね。人生を豊かにすれば、それが音楽に反映されるというか、経験豊かな人の演奏の方が、聴いていて面白いと僕は思っていて…。”毎日同じ習慣・世界”の中で生活している人の話より、”全く違う日常・世界”で生活している人の話の方が聞きたくなるのと同じ様に、ミュージシャンも「いつも新しいものを見て体験してその経験を音楽を通じてお客さんに伝える」ということが必要だと思っています。音楽大学にいると、どうしても「練習しなきゃ」っていう強迫観念があると思うんですけど(笑)、ちゃんと“遊び”の時間も作るようにしてますね。

-練習に熱中されていた当時とは、色々と考え方を変えられたんですね。

そうですね(笑)僕も、10代の時は楽器の練習をすることを一番に考えていて、その他のことは、あまり意識できていなかったと思います。なかなか自分自身で、その部分を認識することは難しいかもしれないですね。ただ、実はアメリカの人たちって、10代でそういうことに気づいている人が意外と多いんですよ。アメリカは、人生に対する価値観や哲学をちゃんと言葉にする文化があるので、「この子18歳なのに、考え方しっかりしてるな」みたいな人は結構います。日本だと、そういうことを話し合う機会が少ないと思うのですが、自分が今まで会ってきた素晴らしいミュージシャン達は、そうしたことまで深く考えてる人が多い気がします。

新しいことに挑戦し続ける=習慣にできると僕は思ったんです

Keita Suzuki Pic3

お話を聞かせて頂いていると、啓太さんの“人生に対する価値観や哲学”をしっかりと持たれているような印象があるのですが、日頃の生活で意識されていることはありますか?

日頃から意識しているのは、自分にとって気楽で、居心地の良い場所に留まらないようにすることです。さっきの話ともつながってくるのですが、常に新しいことに挑戦できているかは考えています。(少し心理学の話になってしまいますが…)、人間は基本的に習慣で生きていることが多く、「経験済みの行動は、脳が新たに処理する必要がないので、すごくラク」という話を、以前本で読んだことがあります。なので、無意識に生きていると、どうしても今までの現状からは抜け出しにくいというか、習慣に引っ張られてしまうのかなと思っています。特に、もっと成長したいなって思っている時は、自分が居心地の良い空間に居座っていないかどうかを常に自問自答するようにしてますね。

そのために、何か具体的に行動されていることはありますか?

これは少し変な例なのですが(笑)、例えば「コンビニなどで1回食べたもの、買ったものは絶対買わない」や、「学校までの行く道を、少し遠回りしてでも、あえて通ったことがない道を通る」ということを、日本にいた頃からやったりしていました。これは、あえて“変化すること”を自分の中で当たり前にすることで、“新しいことに挑戦し続ける=習慣”にできると僕は思ったんです。こういう風に日頃から変化に慣れさえすれば、例えば、演奏中も自分のやりがちなパターンに留まらず、より「クリエイティブになれるのかな」って勝手に思ってたりしてました(笑)

-つまり、啓太さんの生活習慣を変化させることで、自分自身を成長させ、結果自分の演奏や音楽も良くなるということでしょうか?

そうですね。自然と新しい経験を積むことにもつながっていますし、日頃の生活から行動を習慣づけることで、新しいことにも臆せずチャレンジができるようになっている気がします 。

歴史的背景までしっかりと理解・尊重しようとする姿勢は大事なんじゃないかなと思います」

Keita Suzuki Pic4

-バークリーはどんな学校だと思われますか?

バークリーは自分次第な学校だと思います。僕は色々な面において、学校の先生から学ぶことよりも、周りの友達と一緒に演奏・生活することで学ぶことの方が多いと思っています。なので、自分の居心地の良い場所にとどまるのでなく、積極的に周りのコミュニティーに入っていくことが大事だと思います。実際、これはかなりエネルギーがいることなのですが…(笑)それこそ、ロバート・グラスパー*が「音楽は文化だ!」と言っているのを聞いたことがあったり、グレッグ・フィリンゲインズ*が“You gotta live it to be it(「それになりたければ、それを生きろ」)”ってバークリーのマスタークラスでも話してたんですが、ジャンルを問わず、音楽の背景にある人々や文化、そして価値観や信念に触れて理解することが、本当の意味での音楽をすることだと考えているので、それを念頭に置いておくと、こっちでやるべきことが見えてくるように思います。

あと少し話が脱線してしまうかもしれないですが、僕の個人的意見として、何か自分が惹かれる音楽や文化があるなら、そのカッコいいからというだけの表面だけをすくうのではなく、それを築いてきた人々にも尊敬の念を持つことが不可欠だと思います。特に、それを表現する立場にいるならば尚更、そういった文化や言語、そして歴史的背景までしっかりと理解・尊重しようとする姿勢は大事なんじゃないかなと思います。

*ロバート・グラスパー…ジャズピアニスト、プロデューサー。ジャズにヒップホップ、R&B、オルタナティブ・ロック、ゴスペルなどのエッセンスを取り入れるスタイルが印象的。

*グレッグ・フィリンゲインズ…キーボーディストで歌手、作曲家でも知られ、数多くの有名ミュージシャンと共演している。特に、マイケル・ジャクソンのバックバンドで演奏していた活動がよく知られている。

「 強い意志さえあれば、実際なんでもできると僕は思っています 」

Keita Suzuki Pic5

-卒業後はどのように考えてらっしゃいますか?

卒業後は、ニューヨークに行くかロサンゼルスに行くのかで迷っています。ニューヨークには、以前少し滞在したことがあるので、現地の雰囲気は分かっているのですが、ロサンゼルスにはまだ行ったことがないので、来月行って、雰囲気を確かめたいなと思っています。いずれにしても、行った先で、友達や知り合いを増やして、少しずつ仕事を頂けるようにしたいですね。

今後の目標について教えてください。

現状アメリカで、アジア人ドラマーで活躍されている方は、そこまでは多くないと思うんですよ。なので、アメリカの音楽業界の最前線に食い込めるようなドラマーになりたいとは思っています。あとは、自分がもっと成長したら、アメリカで僕自身が得たもの、ドラムの技術に関してもそうなのですが、アメリカにいることでしか感じることができないものって多々あるので、それを日本で共有する機会ができればいいなとも思います。まだまだそんな身分ではないですが、アメリカで活躍できるドラマーになるため、引き続き精進したいと思います。

留学しようかどうか考えている方へ一言お願いします。

もし留学してみたいと思われているのであれば、ぜひ行動した方がいいと思います。でも、ある程度「自分はこうするんだ」とか「こうしたい」という意思がなく、なんとなくアメリカに来てしまうと大変かもしれないです。ただ(これは何にでも言えることですが…)、強い意志さえあれば、実際なんでもできると僕は思っています。仮に僕がバークリーに来れてなかったとしても、語学留学など、何か別の方法を探してでもアメリカに来ていたと思いますし。

あとアドバイスできることがあるとすれば、英語は勉強しておいて絶対に損はないと思います。バークリーは音楽大学なので、授業にしても、友達とのコミュニケーションにしても、それなりになんとかなってしまう部分もあるのですが(笑)アメリカに来て改めて思ったのが、本当の意味でコミュニティーの一部になって文化などを吸収したいのであれば、英語は不可欠なように感じます。加えて、英語のスピーキング、リスニング、ライティングとは全くの別物なので、アメリカに留学する予定があるのであれば、事前にスピーキングの練習を重点的にしておくと良いと思います。

まとめ

音楽家としてだけでなく、ご自身の人生の目標をしっかりと持たれている鈴木啓太さん。演奏の技術だけでなくその歴史、言語、習慣など、音楽の裏側にある背景をしっかりと理解されつつ音楽に取り組まれる姿勢は、とても勉強になりました。私も、啓太さんが大きなステージで演奏される日を楽しみにしております。

鈴木啓太さん、お忙しい中本当にありがとうございました!!

Ai Yamashita Profile
鈴木啓太さんについてより知りたい方はこちら!!

関連記事一覧

  1. Kamei Header
  2. Masaaki_Header
  3. Yoko Suzuki_Header
PAGE TOP